Q&A

2025.12.3

【Q&A】003 退職代行業者への対応

Q

病院のスタッフ(雇用期間に定めのない労働契約の場合)が退職代行業者を使って退職の意思を通告してきました。当のスタッフは病院からの連絡に応じてもらえません。病院としては、どのように対応するのがよいですか。

 

 

A

病院のスタッフが退職代行業者を通じて退職の意思を通告してきた場合、対応を誤ると法的なトラブルや業務への甚大な支障を招く可能性があります。特に医療機関では、患者様の安全確保のためにも冷静かつ迅速な対応が不可欠です。

 

1.法的な対応の基本原則

 

① 退職の意思表示として「有効」と認める

  • 退職は、法律上、労働者からの「辞めます」という意思表示(解約の申し入れ)があれば成立します(民法627条)。
  • 退職代行業者は本人の代理人として意思を伝えているため、この通告を「退職の意思表示」として受け入れる必要があります。病院側が「本人以外からの通告は無効」として拒否することはできません。
  • 原則として、退職の意思表示から2週間(就業規則で定めがあればその期間)が経過すれば退職が成立します。

 

② 業者とのやり取りに注意する

  • 相手が弁護士または労働組合が運営する退職代行業者であれば、退職日の交渉や未払い賃金などの金銭交渉に応じる必要があります。
  • これら以外の一般の民間業者は、法律上、交渉権限がありません(非弁行為に当たるリスクがあります)。民間業者からの連絡に対しては、「退職の意思は受け取った」旨を伝え、事務的な連絡(返却物の案内など)のみを行うのが原則です。交渉事には応じないようにしましょう。

 

2.病院として優先すべき対応と準備事項

 

① 業務引き継ぎの依頼

  • 医療現場では患者様の命に関わるため、業務の引継ぎは極めて重要です。
  • 退職代行業者を通じて本人に対し、引継ぎを履行する法的義務がある旨を書面で通知し、引継ぎ書の作成を強く求めます。
  • (注意点) 従業員が引継ぎを拒否しても、それだけを理由に退職を無効にしたり、損害賠償を請求したりすることは、実務上は非常に困難です。しかし、正式な依頼の記録は、病院の責任を果たした証拠として重要です。

 

② 病院の備品等の返却手配

  • 健康保険証、白衣、職員証、貸与品、病院の機密情報(USB、電子記録など)の返却方法を退職代行業者を通じて本人に伝えます。
  • 返却期限を明確にし、期限までに返送がない場合は、損害賠償請求の対象となる可能性がある旨を伝達します。

 

③ 最終給与・退職金・社会保険の手続き

  • 未消化の有給休暇があれば、退職日までの間に消化することを原則として認めます。
  • 給与計算を締め、最終給与明細、源泉徴収票、雇用保険被保険者証など、退職に必要な書類を速やかに郵送する準備を進めます。

 

3.法律家の支援の必要性

 

退職代行への対応は、労働法、個人情報保護法、そして医療機関特有の業務継続の義務が複雑に絡み合います。

  • 法的な通知書の作成: 業者への返答や本人への引継ぎ依頼を、法的に適切な形式(内容証明郵便など)で作成し、将来の紛争リスクを最小化します。
  • 損害賠償リスクの評価: 業務停止などにより病院に重大な損害が発生した場合、損害賠償請求が可能かどうかの法的な評価を行います。
  • 就業規則の見直し: 退職時の手続き、引継ぎ義務、情報漏洩防止に関する規定を、退職代行に対応できる内容へと見直します。

 

弁護士法人海星事務所には、医療分野・企業法務に強く、弁護士歴20年以上の実績を持ち弁護士をはじめとする専門家が在籍し、貴院の法的リスクを最小限に抑え、円滑な対応を支援いたします。

貴院の就業規則や退職代行業者から受け取った通知文書を拝見し、今後の具体的な法的手続きと対応スケジュールについてご相談を承ります。